・未成年者~制限行為能力者~の法律行為
相続人に未成年の方がいるという状況は,かならずしも珍しいものではありません。
そのような場合にどうしたら良いのでしょうか。
以下のような事例を想定します。
被相続人: 父
相続人: 母(法律上配偶者)及びその未成年の子3名
お父さんがとくに遺言書などを残されていない場合には,民法の規定により,母が2分の1を取得し,残りを3人の子どもたちで分け合うことになります。
ただしこれは遺産共有状態といって財産の最終的な帰属が不確定な状態の共有となります。
そこで遺産分割協議などを行って,遺産の最終的な帰属を確定させる必要が生じます。
問題は未成年者の場合,必ずしも自分自身で判断して意思決定をすることができず,仮に意思決定できるにしても法律上,確定的に行うことができない場合があるということです。
民法は未成年者など一定の配慮を要する者を類型的に制限行為能力者として,その者らがなした法律行為~契約など法律的に意味がある約束事とご理解ください~を原則取り消しうるものとして保護しています。
取り消しうるということは,確定的に有効にはならないということです。
このような場合には,その保護者である親権者が子に代わって契約などをしたり,子が締結した契約に同意を与えるなどして確定的に有効なものとします。
そのような場合にどうしたら良いのでしょうか。
以下のような事例を想定します。
被相続人: 父
相続人: 母(法律上配偶者)及びその未成年の子3名
お父さんがとくに遺言書などを残されていない場合には,民法の規定により,母が2分の1を取得し,残りを3人の子どもたちで分け合うことになります。
ただしこれは遺産共有状態といって財産の最終的な帰属が不確定な状態の共有となります。
そこで遺産分割協議などを行って,遺産の最終的な帰属を確定させる必要が生じます。
問題は未成年者の場合,必ずしも自分自身で判断して意思決定をすることができず,仮に意思決定できるにしても法律上,確定的に行うことができない場合があるということです。
民法は未成年者など一定の配慮を要する者を類型的に制限行為能力者として,その者らがなした法律行為~契約など法律的に意味がある約束事とご理解ください~を原則取り消しうるものとして保護しています。
取り消しうるということは,確定的に有効にはならないということです。
このような場合には,その保護者である親権者が子に代わって契約などをしたり,子が締結した契約に同意を与えるなどして確定的に有効なものとします。
・問題の所在
先ほどの事例に戻ります。
この事例における相続手続きの当事者は,母及び母の親権に服する未成年の子3名となります。
未成年の子が仮に自分自身で意思決定をしたとして,母がこれに,法律上有効に同意をすることができれば,確定的に有効なものとなるわけです。
母が親権に基づく代理権を行使して,子に代わり確定的に有効な法律行為をすることができれば,遺産分割協議ができることになります。
答えを先に示しますと,これらの行為は“できない”わけですが,重要なのはその理由です。
例えば母が親権に基づいて,代理権を行使し,母自らも当事者となっている遺産分割協議について考えます。
この場合,母は当事者の一人でもあるわけですから,法律は,母がその親権に服する子の犠牲のもと,自らの利益を図るかもしれないと考えます。
実際にそのようなことをするかどうかは全く考えていません。
ただただ,そのような可能性があるのではないかと考えています。
誰かの利益を代表すべき者が,代表されるべき者の犠牲のもと,自身の利益になるような行為,これにつながりかねない行為のことを,一般に利益相反行為と言います。
代理人が本人の犠牲のもと,利益を受ける行為を民法は,一定の例外的な場合を除き許容していません。母と子一対一の場合で考えますと,母がいかなる場合においても子の代理ができるとするならば,母が遺産のすべてを取得し,子には何も与えないという決定もできるようになります。民法は,原則として代理人の一存で本人に不利益を及ぼすような行為を認めていません。
このような代理人となるべき者が当事者として何かしらの法律行為を行うにあたっては,この代理人が本人の利益を誠実に代表するとは形式的に言いがたい側面があるので,利害関係のない者を別に代理人として選任する必要がある,そのように民法は考えます。
このような形で選任されるのが「特別代理人」という存在です。民法は,法の定めに基づいて代理人となるべき者が当事者となってしまったような一定の場合には,本人のために特別代理人を定め,この者に手続きをさせることで,利益相反という難しい問題を解決しました。
このため母と子一対一の相続の場合には,子のために,家庭裁判所にて特別代理人を選任してもらい,母と特別代理人との間で遺産分割協議を行うことになります。
この事例における相続手続きの当事者は,母及び母の親権に服する未成年の子3名となります。
未成年の子が仮に自分自身で意思決定をしたとして,母がこれに,法律上有効に同意をすることができれば,確定的に有効なものとなるわけです。
母が親権に基づく代理権を行使して,子に代わり確定的に有効な法律行為をすることができれば,遺産分割協議ができることになります。
答えを先に示しますと,これらの行為は“できない”わけですが,重要なのはその理由です。
例えば母が親権に基づいて,代理権を行使し,母自らも当事者となっている遺産分割協議について考えます。
この場合,母は当事者の一人でもあるわけですから,法律は,母がその親権に服する子の犠牲のもと,自らの利益を図るかもしれないと考えます。
実際にそのようなことをするかどうかは全く考えていません。
ただただ,そのような可能性があるのではないかと考えています。
誰かの利益を代表すべき者が,代表されるべき者の犠牲のもと,自身の利益になるような行為,これにつながりかねない行為のことを,一般に利益相反行為と言います。
代理人が本人の犠牲のもと,利益を受ける行為を民法は,一定の例外的な場合を除き許容していません。母と子一対一の場合で考えますと,母がいかなる場合においても子の代理ができるとするならば,母が遺産のすべてを取得し,子には何も与えないという決定もできるようになります。民法は,原則として代理人の一存で本人に不利益を及ぼすような行為を認めていません。
このような代理人となるべき者が当事者として何かしらの法律行為を行うにあたっては,この代理人が本人の利益を誠実に代表するとは形式的に言いがたい側面があるので,利害関係のない者を別に代理人として選任する必要がある,そのように民法は考えます。
このような形で選任されるのが「特別代理人」という存在です。民法は,法の定めに基づいて代理人となるべき者が当事者となってしまったような一定の場合には,本人のために特別代理人を定め,この者に手続きをさせることで,利益相反という難しい問題を解決しました。
このため母と子一対一の相続の場合には,子のために,家庭裁判所にて特別代理人を選任してもらい,母と特別代理人との間で遺産分割協議を行うことになります。
・子どもが複数名いる場合
母と子が相続の当事者になったときに母が親権に基づく代理権・同意権を行使できないことはわかりました。
ではさらに話を一歩すすめて子が2名以上居る場合を考えます。
さきほどの事例では子ども3名を考えました。
特別代理人1人を3人の子どものために選任してもらい,母との間で遺産分割協議をすることができるでしょうか?
少なくとも母と子らとの間の利益相反は起こりませんが,別の問題が発生します。
それは特別代理人が子どもA,B,Cとした場合に,B,Cの犠牲のもと,Aの利益となるような行動をする可能性です。
例えば特別代理人はその遺産分割協議とは一切関係がないのですが,Aが素直で代理人が気に入ったとします。とすると,B,Cに少なめに配分し,Aに多めに配分しようとするかもしれません。
たとえ利害関係になくとも複数名に対して一人の代理人が選任されてしまうとえこひいきのような問題が生じるかも知れない,民法はそのように考えています。
ではさらに話を一歩すすめて子が2名以上居る場合を考えます。
さきほどの事例では子ども3名を考えました。
特別代理人1人を3人の子どものために選任してもらい,母との間で遺産分割協議をすることができるでしょうか?
少なくとも母と子らとの間の利益相反は起こりませんが,別の問題が発生します。
それは特別代理人が子どもA,B,Cとした場合に,B,Cの犠牲のもと,Aの利益となるような行動をする可能性です。
例えば特別代理人はその遺産分割協議とは一切関係がないのですが,Aが素直で代理人が気に入ったとします。とすると,B,Cに少なめに配分し,Aに多めに配分しようとするかもしれません。
たとえ利害関係になくとも複数名に対して一人の代理人が選任されてしまうとえこひいきのような問題が生じるかも知れない,民法はそのように考えています。
・代理人は一人の利益しか代表できない
以上まで見た問題は,一人の人間は一人の利益しか代表できない(のではないか)という疑念にあります。
母が当事者となってしまえば,子を犠牲にして自分の利益を図ろうとするかもしれません。
子3名のために一人の代理人が選任されると,その子の間でどう公平をつけるか,その者がすべて判断することになります。誰か一人をえこひいきして他の者を犠牲にするかもしれません。
自己の利益もあるなかで相手方の利益も考えつつ,あるいは複数名の利益を考えながらその代理を行うということは,非常に難しいというのが法律の判断ということになります。全体を見通し,すべての当事者に配慮することはとても困難なことです。
このため,母と子3名の遺産分割協議のような場合には,母は親権に基づく代理権が行使できず,子一人ずつに対し特別代理人を選任してもらう作業が必要になります。
母が当事者となってしまえば,子を犠牲にして自分の利益を図ろうとするかもしれません。
子3名のために一人の代理人が選任されると,その子の間でどう公平をつけるか,その者がすべて判断することになります。誰か一人をえこひいきして他の者を犠牲にするかもしれません。
自己の利益もあるなかで相手方の利益も考えつつ,あるいは複数名の利益を考えながらその代理を行うということは,非常に難しいというのが法律の判断ということになります。全体を見通し,すべての当事者に配慮することはとても困難なことです。
このため,母と子3名の遺産分割協議のような場合には,母は親権に基づく代理権が行使できず,子一人ずつに対し特別代理人を選任してもらう作業が必要になります。
・利益相反の判断の仕方: 外形標準説
このような代理権の制限は行為の外形的な状況に基づくものであり,その実質は問われません。外形的に見て利益相反のパターンに当てはまるものであれば,代理権は制限されます。これを外形標準説と言います。
例えば先の事例において遺産となるべき財産が預金150万円だけの場合において,母が一切相続せず,子が均等に50万円ずつ預金を取得するというような遺産分割協議は,実質的に見れば公平であり,母が子の犠牲のもと,自己の利益を図ったと言えないとも思われます。
しかしこのような遺産分割協議も協議をすること自体が利益相反行為となるため,通説・判例の理解によれば認められません。
仮に母が先に相続放棄をし,当事者ではなくなったとしても,今度は子と子の間で利益相反の問題が起こるため,50万円ずつの均等相続であったとしても,代理権行使が制限されます。
結果としての均等,公平は,その行為を許容したりしないというのが基本的な考え方になります。
例えば先の事例において遺産となるべき財産が預金150万円だけの場合において,母が一切相続せず,子が均等に50万円ずつ預金を取得するというような遺産分割協議は,実質的に見れば公平であり,母が子の犠牲のもと,自己の利益を図ったと言えないとも思われます。
しかしこのような遺産分割協議も協議をすること自体が利益相反行為となるため,通説・判例の理解によれば認められません。
仮に母が先に相続放棄をし,当事者ではなくなったとしても,今度は子と子の間で利益相反の問題が起こるため,50万円ずつの均等相続であったとしても,代理権行使が制限されます。
結果としての均等,公平は,その行為を許容したりしないというのが基本的な考え方になります。
・母と子3名の相続手続きの仕方
以上のように母の代理権行使が制限されますので,子1名毎について特別代理人の選任手続きが必要です。
その際,家庭裁判所には遺産分割協議書案を提出しますので,公平性にも配慮した専門的知見に基づく内容構成をする必要があります。
これらの判断は難しいものがありますので,どのような内容であれば手続きができるのかなどを一緒に考えてゆければ幸いに存じます。
その際,家庭裁判所には遺産分割協議書案を提出しますので,公平性にも配慮した専門的知見に基づく内容構成をする必要があります。
これらの判断は難しいものがありますので,どのような内容であれば手続きができるのかなどを一緒に考えてゆければ幸いに存じます。